<前編> ~山際さんの活動に見るESDと「持続可能性」~
2011年4月、渋谷の代々木公園で行われた「アースデイ東京」のステージで、私は踊る「日本人のマイケル・ジャクソン」と出会った。
それから約7年が経ち、今回「マイケルやも」こと、山際伸二郎(やまぎわ・しんじろう)さんに改めてインタビューを敢行した。
山際さんの社会貢献活動の大きなきっかけとなった2009年のマイケルの逝去と「THIS IS IT」の公開、そして東日本大震災にさかのぼり、誰よりも熱心な環境活動家であったマイケル・ジャクソンの思いや楽曲が教えてくれることや、「誰でも踊れるマイケル・ジャクソンのダンス」で子ども達や大人を率いてきた山際さんならではのESDの考え方を紐解いた。
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(腰塚) 本当に、久しぶりにお会いできてとても嬉しいです。今日のインタビューまでのこの8年を振り返り、山際さんの活動がその時々の社会状況といつもリンクしていたことに驚きました。
(山際さん) そうですね。2009年7月に行われる予定だったマイケルのコンサート「THIS IS IT」のチケットもとって、ロンドン行きを楽しみにしていたのですが、そのツアーを控えた6月、本当に急逝してしまった。
マイケルが亡くなってから、世界中のファンがマイケルのオマージュダンスで「フラッシュ・モブ」を行うなど、ある種「お祭り」のようにイベントが行われる中、僕も「やっぱりマイケルのメッセージをつないでいかないと」と思いました。
日本でもこれやろうよ、とマイケルファンが集まってやった舞浜のイクスピアリでの「THIS IS IT」上映前の追悼「フラッシュ・モブ」で、何かできることがあるならばとパフォーマンスという形で、僕が真ん中を踊らせていただいたんです。僕は、マイケルが「THIS IS IT」で伝えたかったメッセージを受け継ぐような形にしたいと思い、言葉をつないでいくならば、これを・・・と、本も出しました。
2016年5月にアースデイwithマイケルとして編著した『マイケル・ジャクソンの言葉』には、マイケル・ジャクソンの言葉を集めた。
(山際) 2010年には、パフォーマンス活動の一つ「ヒストリー・ライブ」で、一人一つ、社会貢献をして報告しあうという形の「ソーシャルライブ」というムーブメントも作ろうとしていました。その後の2011年3月11日に、忘れもしない東日本大震災が起こりましたね。
(腰塚) 震災直後の2011年4 月に、山際さんと腰塚が出会った「アースデイ東京」が開催されました。
(山際) 「アースデイ東京」って、マイケルの考え方そのもののイベントだな、と思っていたのですが、マイケルの姿かたちも見えないし、音楽も聞こえてこないから、さみしいなぁと思って(笑)。
そこで、腰塚さんも参加してくれた「アースデイwith マイケル」(http://withmichael.org/)の活動を始めました。
(腰塚) この時は復興支援活動のピーク期で、学生の私は何かしたい、何もできないかもしれないけれど「なんとしてでも参加せねば」と思っていました。
震災から、そして山際さんとの出会いから今、ちょうど7年目という節目に振り返ると、東日本大震災の風化を防ぐことと、マイケルの遺志を継ぐこと、なんだかリンクしているな、と思えます。
(山際) 「アースデイwithマイケル」で出演準備をしている段階から、「アースデイ東京」実行委員会のメンバーの一員として、石巻へ行ってボランティア活動にも参加してきました。この12月まで、東北の仮設住宅を訪問し、仮設住宅でパフォーマンスするというのを続けてきましたが、訪問先の福島県楢葉町の仮設住宅が、3月で打ち切りとなるため、全44回で終了を迎えます。
(腰塚) あの頃、今のようにはSNSが発達・普及していなかったと振り返ります。私は観客席にいただけでしたが、沢山のダンサーを率いてマイケルの楽曲を次々と踊った後、復興にむけたメッセージを伝える山際さんを見て、すごいパワーを感じたのは確かです。
【アーティストだけではない、マイケル・ジャクソンという人】
(腰塚) 山際さんが教えてくれた 「マイケルは社会起業家」というのは、新しい見方だと思いました。そう思う理由を詳しく聞かせてください。
(山際) 多くの人が「マイケルはアーティストだよ」と言うと思います。でも、他のアーティストから見れば、とび抜けている部分があります。
例えば「デンジャラス」というアルバムを作ったときは、「デンジャラス・ツアー」の収益をすべて慈善活動に寄付するなど、自分のファンドでビジネスモデルを敷いていた。アルバムをリリースしたら、その収益は社会活動と循環している、というように。当時、そんなことを考えているアーティストはたぶん、いなかった。
そこまでしてマイケルがやろうとしていた社会貢献をフォローしていこう、という思いが活動のきっかけでした。
(腰塚) 私が出会った山際さんの姿そのものが、それを体現しているように見えました。
(山際) パフォーマンスの質を高めるよりも、誰でも参加できるようにして、パフォーマンスそのものが社会貢献になる、という形にしたかった。
「アースデイwithマイケル」のパフォーマンスのメンバーはイベントごとに公募して、その都度違うメンバーになるのですが、できるだけ定型化して、「どんなメンバーが踊ってもステージになる」というように、パフォーマンスの均質化に努めました。
(腰塚) 実は、今日はその華やかなステージの裏の苦労も知りたかったです。
当時の私は気づかなかったのですが「かっこいい!」という歓声の裏側で、山際さん自身は、パフォーマーとしてマイケルを演じるだけでなく、活動を広げる講演者との二足のわらじなど、大きな苦労があったのではないですか。
(山際) そうですね。僕自身、どんな場所でもよいという訳ではなくて、できるだけ「環境」がテーマのものや「チャリティ」を目的としたイベントに出演機会を作ろうとしていましたが、当時はマイケルのパフォーマンスの人気もあって、どんどんオファーが来るようになってしまいました。
実際、東北での復興イベントがあって、月1回の定例イベント出演があって、そして何より、アースデイの発表準備で、年の3分の1の時間がかかる。
2014年頃は、これと両立してフルタイム勤務もしていました。
(腰塚) なんと。「3足のわらじ」だったのですね。
(山際) その時に比べて今は、イベントの企画やパフォーマンスに充てる時間は、少なくなりました。
これまでの様々な活動を通じて、どういう生き方をするべきか。僕自身、生活や仕事や趣味も含めて、100%「愛が大事だということを世界に思い出させよう。そして地球を大切にしよう。」というメッセージを体現する、ライフ・アーティストになりたかった。なる時が来た。と思っていました。
【「農」は、社会の問題を解決するたくさんのカギを持っている。マイケルのメッセージは「農」にも行き着く】
千葉市「しげファーム」さんにて(写真:山際さん提供)
(腰塚) 畑や田んぼの中の「半農半マイケル」姿もお見かけしたのですが、ご自身で野菜やお米を育てているのですか。
(山際) 2017年8月に、妻の佐智子とともに地元千葉で「マイラブファーム」(http://mylovefarm.jp) という無農薬・自然栽培の農業を始めてから、
こちらに専念しています。「大切なあなたへ、愛をこめて」。人々が、愛する人たちと、心身ともにすこやかで、ハッピーな毎日が送れるように。
「マイラブファーム」という名前には、そんな思いをこめました。
(腰塚) 「農」や「食」というテーマで、お子さんたちへの環境教育にも取り組んでいらっしゃるのでしょうか。
(山際) NPO法人「MERRY PROJECT」が主催する「MERRY ART GARDEN」では、都会の屋上で農業体験やワークショップをするなどを楽しんで、「地球にやさしいとはどういうことだろう」ということを、親子で知っていただき、帰っていただくということにも携わらせていただきました。
お子さんたちと集まって行う農業体験や食育も、マイケルでやると意外と面白くなるんですよ。
今は、まずは畑をやって「僕たちのネバーランドづくりから」と思っていますが、今後は子ども食堂やお年寄り向けのカフェを運営したり、畑が大きくなってきたら、障がいを持った方々が働けるようにしたり、地域のお子さんが集まれる場にしたいなとも思っています。
(腰塚) 想像するだけで、わくわくするような地域の未来が広がっていますね。そうした活動も、心の底から応援したいと思います。
(山際) 「農」は人の心と体をすこやかに、地球にやさしく、社会の問題を360°にわたって解決する可能性を持っていると思っています。
農業をすることはもちろん、あらゆる場面で農や食を意識して暮らしに取り入れることで、健康、教育、福祉、環境、循環型、平和・・・あらゆる社会問題の解決のカギになるのではと。
そして、格差が広がる社会の中でも誰もが幸せに・リーズナブルに暮らせて、子どもも自然の中で学ぶことができて、健康になるという道が見いだせる。
お年寄りにだって、大切ですよね。少子高齢化が進み、閉塞感のある社会になって、誰もが「家族の介護」や「社会のストレス」を抱える時代になることを覚悟しなくてはならない、と憂慮されているのを最近TVでも観ましたが、僕はそんな時代で、「どこに幸せを求めるか?」と考えた時、「自然な生き方をするのが一番」と思っています。
(腰塚) 「自然な生き方」と聞いて、マイケルの「ヒューマン・ネイチャー」という曲を思い出しました。
(山際) まさに、そうです。この先、AIが普及して仕事をするようになったら、農業や、アート活動(芸術)といった人間が個性を出せる仕事だけが生き残っていくのではないでしょうか。自然への働きかけと「歌いたい、踊りたい、奏でたい」という原始の衝動が残ると思っています。
「地球よ、穏やかで美しいブルー。心から愛している。」
Planet Earth, gentle and blue
With all my heart, I love you.
―『ダンシング・ザ・ドリーム』より
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(後編)「誰でも体現できる『ポップ』が教えてくれること」 はこちら
#ESDワカモノ
訪問先
山際 伸二郎 /マイケルやもHP
http://michaelyamo.com
自然農園マイラブファーム・HP
http://mylovefarm.jp
書籍「マイケル・ジャクソンの言葉」
http://www.amazon.co.jp/dp/4594072585
記入者
腰塚 安菜(オーガニックライフスタイリスト)
1990年生まれ。慶應義塾大学法学部卒業。オーガニックライフスタイリスト。
日本第一号オーガニックコンシェルジュ岡村貴子氏のもと日本最年少(18歳)で資格を取得。2010年、オーガニックライフスタイリストの認定を受ける。
2011年、末吉里花氏主宰の「フェアトレードコンシェルジュ講座」を修了。
一般社団法人ソーシャルプロダクツ普及推進協会が主催する「ソーシャルプロダクツ・アワード」(今年度6周年)に第1回から審査員で参加。