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気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第56回会合及び第14回第3作業部会会合が3月21日~4月4日にかけて開かれ、第6次評価報告書第3作業部会報告について議論されました。当初予定の4月1日に終了せず、引き続き会合を継続し、4月4日に政策決定者向けサマリー(SPM)を採択しました。本報告書案は役3,000ページにわたる大部の資料ですが、この夏のIPCC会合で議論され、最終化される予定です。
この報告書の作成には、世界65カ国から278人の著者が参加しています。36名のコーディネーティング・リード・オーサー、163名のリード・オーサー、38名の レビュー・エディター、354名の著作貢献者、18,000以上の引用文献、合計59,212人の専門家と政府のレビューコメントによって作成されました。
ジュネーブで4月4日に行われたプレスリリースで示された報告書の概要は、以下の通りです。
- 証拠が明らかになり、行動を起こす時は今!2030年までに排出量を半減させることが可能。
2010年から2019年にかけて、世界の温室効果ガス排出量は世界史上最高水準でしたが、増加率は鈍化しています。すべてのセクターで即時かつ大幅な排出削減がなければ、地球温暖化を1.5°Cに抑制することは不可能です。しかし、気候変動行動のさらなる可能性に関する証拠が増えていると、科学者は述べています。
2010年以来、太陽光と風力エネルギー、バッテリーのコストは最大85%まで継続的に低下してきました。政策や法律の範囲が拡大し、エネルギー効率が向上し、森林伐採率が低下し、再生可能エネルギーの展開が加速しています。
「私たちは岐路に立っている。 私たちが今下す決断により、生きていきやすい未来を確保することができる。私たちには温暖化を抑制するために必要なツールとノウハウがある。私は多くの国で気候変動対策がとられていることに勇気づけられている。効果的であることが実証されている政策、規制、市場的手段がある。それらがスケールアップされ、より広く、公正に適用されれば、大幅な排出削減を実現し、イノベーションを進めることができるだろう。」とIPCC議長のホーセング・リー博士は述べています。
- 私たちは、2030年までに少なくとも排出量を半減させるという選択肢をあらゆる部門で有している。
地球温暖化を抑制するには、エネルギー部門における大きな転換が必要。これには、化石燃料の使用の大幅な削減、広範な電化、エネルギー効率の向上、代替燃料(水素など)の使用が含まれます。
「私たちのライフスタイルや行動を変えるための適切な政策、インフラ、テクノロジーを整備することで、2050年までに温室効果ガス排出量を40~70%削減することができる。これは未開拓の大きな可能性を提供する。これらのライフスタイルの変化が私たちの健康と幸福を改善できるとの証拠がある」とIPCC第3作業部会共同議長のプリヤダルシ・シュクラは述べています。
都市やその他の都市近郊部も、排出削減のための大きな機会を提供します。これらは、エネルギー消費の削減(コンパクトで歩きやすい都市の創出など)、低排出エネルギー源と組み合わせた輸送の電化、自然を利用した炭素の吸収と貯蔵の強化によって達成できます。新しい都市のための選択肢が確立され、急速に成長しています。「ほぼすべての気候条件下で、ゼロエネルギーまたはゼロカーボンの建物の例が見られる。今後の10年間の行動が、建物の緩和のポテンシャルを高めるうえで極めて重要である。」とIPCC第3作業部会共同議長のジム・スキーは述べています。
産業における排出量の削減には、材料をより効率的に使用し、製品を再利用およびリサイクルし、廃棄物を最小限に抑えることが含まれます。鉄鋼、建材、化学品などの基礎材料については、温室効果ガスの低・ゼロ排出の生産プロセスは、商業化のパイロット段階にあります。このセクターは、世界の排出量の約4分の1を占めています。ネットゼロを達成することは困難であり、新しい生産プロセス、低排出およびゼロエミッションの電気、水素、および必要に応じて炭素回収と貯蔵が必要になります。
農業、林業、その他の土地利用は、大規模な排出削減をもたらし、二酸化炭素を大規模に除去および貯蔵することもできます。しかし、土地利用対策は他の部門での排出量削減の遅れを補うことはできません。それらの対策は、生物多様性に利益をもたらし、気候変動に適応し、生計手段、食料と水、木材供給を確保するのに役立ちます。
- 今後数年間が非常に重要
評価したシナリオでは、温暖化を約1.5°C未満に抑制するためには、世界の温室効果ガス排出量を遅くとも2025年までにピークに達するようにし、2030年までに43%削減する必要があります。同時に、メタンも約3分の1削減する必要があります。仮にそうしたとしても、一時的に1.5℃を超えることはほぼ避けられませんが、今世紀末にはそれ以下に戻せる可能性があります。「地球温暖化を1.5°C未満に抑制したいのであれば、今行動すべきであり、今やらねば決してできない。すべてのセクターで即時かつ大幅な排出削減がなければ、それは不可能だ。」とスケア氏は述べています。地球の気温は、二酸化炭素排出量が正味ゼロに達すると安定します。1.5°C未満にするためには、2050年代初頭に世界中で二酸化炭素排出量を正味ゼロにしなければなりません。2°C未満の場合には、2070年代初頭までに正味ゼロにする必要があります。
この評価では、温暖化を約2°C未満に抑制するとしても、世界の温室効果ガス排出量を遅くとも2025年までにピークに達し、2030年までに4分の1削減する必要があることを示しています。
- 投資ギャップの解消を
テクノロジーの先を見据え、温暖化を2°未満に抑えるためには、2030年までに現状と比べて3倍から6倍の水準の資金フローが必要です。投資ギャップを埋めるのに十分なグローバルな資本と資金の流動性がありますが、しかし、その資金を活用できるかどうかは、公共部門の財政と政策のより強力な連携を含む、政府と国際社会からの明確なシグナルがあるかどうかに依存します。適応コストの削減や気候への影響の回避による経済的利益を考慮に入れないとしても、温暖化を2°C未満に抑えるために必要な行動をとった場合、現在の政策を維持するのと比べて、世界の国内総生産(GDP)の低下は、2050年にわずか数パーセントにすぎないと予測されました。
- 持続可能な開発目標の達成
気候変動の影響を緩和し、それに適応するために、気候変動対策を加速し、かつ公正に進めることが持続可能な開発にとって極めて重要です。いくつかの対応オプションは、炭素を吸収し、 貯蔵することができ、同時に、気候変動に関連する影響をコミュニティが減らすことができます。例えば、都市では、公園やオープンスペースのネットワーク、湿地、都市農業が洪水リスクを軽減し、ヒートアイランドの影響を軽減することができます。産業における緩和策は、環境への影響を軽減し、雇用とビジネスチャンスを増やすことができます。再生可能エネルギーによる電化と公共交通機関の移行(モーダル・シフト)は、健康、雇用、公正性を高めることができます。気候変動は、1世紀以上にわたる持続不可能なエネルギーと土地利用、ライフスタイル、消費と生産のパターンの結果です。この報告書は、今行動を起こすことにより、より公正で持続可能な世界に向けて私たちが行動できることを示しています。
なお、第3作業部会の報告については、環境省等政府機関からプレス発表が行われています。