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9月18日、19日と開かれた「SDGsサミット」に続き、9月20日には「気候野心サミット」が一日開かれました。この会議では、各国首脳と政府首脳、その他の指導者が気候変動対策の加速と野心の高まりに向けた道筋について議論しました。
グテーレス国連事務総長は、「人類は地獄の門を開いた(Humanity has opened the gates of hell)。」と述べ、現在のレベルの気候変動対策は「挑戦の規模に関して矮小化されている」と指摘しました。彼は、世界の最貧国には、野心の遅れ、気候資金の不足、借入コストの高騰について「怒る権利」があると強調し、彼が提唱する加速化アジェンダ(Acceleration Agenda)の具体的な行動提案を提示しました。
• OECD諸国は2030年までに、その他の国は2040年までに、石炭の使用をフェーズアウトする。
• 化石燃料に対する補助金を取りやめる。
• 気候行動を支援するよう多国間開発銀行をオーバーホールする。
• 緑の気候基金の補充を行い、1,000億ドルの資金提供の約束をする。
• 来たる気候変動枠組条約COP28において、「損失と被害基金(Loss and Damage Fund)」を実施可能な状態に(operationalize)する。
開会の全体会議の後、以下のテーマについての議論が行われました。
・ネットゼロの信頼性:アーリー・ムーバーによるリーダーシップと規制
・気候正義の実現:全ての人のための適応と早期警報システム
・連帯と社会実装による脱炭素の加速化
・損失と被害基金に関する国連事務総長特別会合
閉会の全体会合で、アラブ首長国連邦のUNFCCC COP 28議長は、COP 28で次の分野で進展をもたらすとの願望を強調しました。
• 緩和ギャップを解消する。
• 化石燃料を段階的に削減し、ゼロカーボン代替手段を段階的に引き上げる。
• 2030年までに再生可能エネルギーを3倍にする。
• エネルギー転換への移行のタイムラインへの許可を最小限に抑え、バッテリーの貯蔵とエネルギー効率への投資を大幅に推進することにより、エネルギー転換をサポートする。
彼は、すべての国に対し、食料システム、農業、気候行動に関する首脳宣言に署名するよう奨励し、COP 28では気候と健康に関する閣僚級対話が行われると述べました。
太平洋諸島のユース代表は、街頭や法廷で表明された気候正義の要求に応えるよう代表団に促しました。
最後に、グテーレス事務総長は、このイベントは「気候野心サミット」として始まり、「気候希望サミット(climate hope summit)」として終わったと述べました。先進国と新興国の間の継続的な分断によってG20の行動が行き詰まっていることに失望を表明したにもかかわらず、彼は多くの関係者が1.5°C目標に同調する用意があると強調しました。すべての気候「実行者」に行動を拡大し、人々を団結させ.るよう促しました。
このサミットでは、ウクライナの戦争の影響で多大な利益を上げた化石燃料産業に対する強い非難が行われました。また、共同エネルギー転換パートナーシップの開発、化石燃料の段階的廃止のタイムライン、緑の気候基金の資本増強、グリーンウォッシングの取り締まりなどの重要な政策についても、進展と収束に向けた具体的な兆候が見られました。再生可能エネルギーは今では非常に安価で、広く普及しており信頼性が高いため、経済的な理由だけで、化石燃料の使用は2020年代にピークに達すると予想されます。この点に関し、2030年までに再生可能エネルギーを3倍にし、エネルギー効率を倍増させるという目標をCOP28で採択することに楽観的な代表もいました。
気候野心サミットに関する詳細な情報については、以下のURLからダウンロードできるENB(英語)をお読みください。
https://enb.iisd.org/sites/default/files/2023-09/enb0318e_1.pdf
なお、気候野心サミットの開会の全体会合は、以下のURLから視聴できます。
https://media.un.org/en/asset/k1v/k1v3solz9d
今回の気候野心サミットでは、国連事務総長は、「人類は地獄の門を開いた(Humanity has opened the gates of hell)。」とまで言いきり、極めて強い危機感を示しました。一方で、1.5℃に抑えるための技術は既にあり、如何にその技術を社会実装するかが課題であるとも繰り返し強調されています。我が国の多くの人々は、このような極めて強い危機意識を共有していないように見えます。いまだに、危機感ばかりを植え付けるのは逆効果だとの議論も聞かれます。この気候野心サミットを通じて、そのような「ぬるま湯の時代」は既に過ぎ去っているとの認識を、日本国民全体が共有することが喫緊の課題のように思えました。