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Lentil as Anything – お金とモノの流れ、人と人の関係を変える

[執筆者]野口 扶美子
(ロイヤルメルボルン工科大学(Royal Melbourne Institute of Technology:RMIT))

 
 多文化主義が憲法に明記されている、世界有数の国、オーストラリア。しかし、多文化主義には、さまざまな困難がともなう。特定の民族や先住民族への差別があり、そうした差別が学校中退や不登校、暴力や、飲酒・ドラッグ、失業、貧困などの問題につながっている。本稿では、多様な人びとの共存と貧困や環境問題を生み出す社会の構造的な問題をあわせて解決していくことを目的とした地域でのESD活動として、非営利組織Lentil as Anything(LaA)の活動を、メルボルンから紹介する。
 
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LaA は、ベジタリアンとヴィーガン(乳製品・卵を不可とするベジタリアン)の料理を提供するレストランと、The Inconvenience Storeという小規模のスーパーを運営している。レストランでは、客がメニューを見て注文をして、食事が運ばれてきて食べる、スーパーでは、品物の管理をするスタッフがいて、レジで精算をするという点では、普通のレストランやスーパーとなんら変わりはない。しかし、レストランのメニューにも、スーパーに並ぶ品物にも「値段」がないという点で、通常とは大きく異なる。
 
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ここでは、レストランで食事をしたりスーパーで品物を手に入れるためには、経済的な余裕のある人は、自分が妥当であると思う金額を寄付したり、食料品を寄付する。経済的な余裕がなければ、ボランティアとして活動に参加することになる。寄付箱が置いてあるテーブルには、目安となる金額のリストが貼られていた。15ドル以上の寄付で、経費のほか庇護申請者や貧困状態にいる人たちの支援活動に資金を回す1。12ドルの寄付で、この活動を続けるために必要な経費をまかなう。5ドル以下であれば、費用もまかなえないため、ボランティアとして活動にかかわることを提案している。
レストランのシェフやカフェ・バリスタ、ウェイターやウェイトレス、スーパーのスタッフとして、多くのボランティアがかかわる。ボランティアの多くは、移民や難民、庇護申請者としてメルボルンに移り住み、英語でのコミュニケーションが困難だったり、ひとり親、失業といった問題を抱える。ボランティアをすることで、英語のコミュニケーション力を身につけたり、調理の技術や、商品管理、接客の仕方などを学び、就職するためのトレーニングの機会が与えられる。毎週月曜日にある説明会に出席すれば、誰もがボランティア登録をすることができる。ボランティアの経験は、社会的貢献活動として履歴書に記載することができ、レストランの店長が、就職活動をする際の推薦人になる。さらに、ボランティアには食事も提供される。
 
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レストランの食事の材料や、スーパーの品物は、大型スーパーや近隣の市場から引き取った賞味期限間近の加工品や、余剰作物や傷や変形のある野菜である。

LaAは、スリランカ出身のShanaka Fernando(シャナカ・フェルナンド)さんが創立。「食品の廃棄をなくし、お金の流れと人の関係のあり方を変えていく」という考えが、活動を支える理念。スリランカの内戦の中で育ったフェルナンドさんは、貧困と暴力、格差や環境破壊を目の当たりにし、人間性のあり方を探り、この活動に行き着いた2。LaAでは、食品廃棄の実情を紹介する情報なども提供されている。ここに「客」としてくる人たちも、多様な文化的背景のボランティアと接したり、違う形で食事や品物を手に入れるという行為を通して、環境や平和、多文化共生、貧困などの問題の関連性を学ぶことができる。
社会的弱者の権利の問題は、政策やアドボカシーとして取り組まれることが多い。しかし、「権利」というものがそういった考え方としてだけで終わるのではなく、社会的な不公正や環境破壊を生み出す社会や経済の構造の問題をいろいろな立場の人に問いながらも、実際に人の関係性やお金の流れを変えていくところに、LaAの活動の意義がある。権利は文字上のものでなく、実質的なものとなってはじめて本来の意味を成す、ということを伝えている。
LaAは、メルボルンにレストランが3店舗とスーパーが1店舗、シドニーにレストランを1店舗もつ3。レストランの評価も高く、グルメのレビューサイトでも、5スター中4.6を獲得している4。わたしは、ここで豆腐をつかった南インドのカレーとドーサをいただいた。味付けは本格的だった。レストランは、とてもにぎわっており、決して社会的活動という名前だけで売っているのではなく、実際においしい料理を提供しているという点も、最後に強調したい。
 


 
1 Pay it forward (ペイイットフォーワード)は、例えば、AがBに何かを与えた場合、BはAに恩を返すのではなくCに与えることで、CはAやBに対して恩を感じながら、つぎの世代へより多くのことを伝えていく。互いを思いやり、自然に後進が育ちやすい、ポジティブな社会循環が生むという考え。https://www.nikkei.com/article/DGXKZO85478960Z00C15A4X12000/
2 フェルナンドさんの背景やLaA設立の背景など詳しくは、2012年にメルボルンであったTED Talk、『Universal pay as you feel – Shanaka Fernando』(https://youtu.be/jodpW59On7g)を参照。
3 Lenthil as Anythingの詳細は、https://www.lentilasanything.com/を参照。
4 https://www.zomato.com/melbourne/lentil-as-anything-abbotsford