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探究科基礎とESD(チャンギ校の挑戦)

【海外通信員レポート:シンガポール】
 
シンガポール日本人学校小学部チャンギ校ESD通信
 
[執筆者]池端 弘久
(シンガポール日本人学校 小学部チャンギ校 校長)

 
 本年度本校は、児童数912名、教職員数75名(委託業務ローカルスタッフを除く)学級数31学級、特別支援通級指導教室7教室の規模で教育活動を行っています。教育目標として「持続可能な社会の担い手として、夢を抱き自らの可能性を伸ばし、豊かな国際感覚を持ち世界の人々とつながろうとする子」を掲げ、その実現に向けて努力してきています。今回レポートするのは、本年度から総合的な学習の時間を「探究科基礎」と改称し、新学習指導要領の全面実施に向け、ESDやSDGs17の視点や価値観などを取り入れてより探究的な学習となるよう取り組みを強めていますので、その経緯をご紹介します。
シンガポール日本人学校においても、グローバル人材育成の必要性と重要性が確認され、学校運営理事会で審議を重ねた末、2018 年4月1日より「シンガポール日本人学校グローバル人材育成大綱」を策定・施行しました。 そしてグローバル人材育成の実現のために、基本的な施策(6つの重点課題)を掲げています。その一つが「持続可能な未来社会を実現するための探究力の育成」です。 そこで、シンガポール日本人学校では現地理解教育を中心に、より探究的な学習によってクリティカルシンキングなどの探究力の基礎を身に付ける「探究科基礎」を、第3学年以上の学年に総合的な学習の時間として設置しました。   
この「探究科基礎」においては、シンガポール(自然、社会、歴史、人)を学ぶことを通して、日本やシンガポール、自分との関わりなどについて理解を深めるため、理科や社会科等とのクロスカリキュラムを編成・実施しています。 また、「探究科基礎」をより探究的(体験的、問題解決的、協同的)に充実し価値あるものにしていくためには、クロスカリキュラムを工夫し、教科発展型の学習を展開する必要があると考えました。それは、これまでは体験で終わりがちな総合的な学習の時間を、より探究的にするためには、しっかりとした教科で培った知識理解を土台とすることが必須だったからです。そして、「探究科基礎」の時間が教科とクロスすることで、その教育課程が量的にはコンパクトに質的にはディープになり、調査活動や実験・観察などの体験的・問題解決的で協同的な学習に注力できると考えました。 以上のことから、チャンギ校では現地理解教育を中核にして、シンガポールの自然、社会(インフラ、歴史、文化)、人などの地域素材の中に、ESD の視点に基づく探究する価値を発見し、教材化していくことを課題として、授業づくりを行ってきています。
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例えば、第3学年では、理科の昆虫や植物を扱う単元において、基本的な知識理解や科学的な見方考え方を学習した後クロスさせました。シンガポールにおいて初めて世界遺産に登録された「ボタニックガーデン(シンガポール植物園)」に造成されたラーニング・フォレストに着目し、生物間の関わりや環境保全の重要性に気づく学習に取り組みました。
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実際のラーニングフォレスト観察場面では、子どもたち自ら、カワセミやオオトカゲなど熱帯の不思議な植物や動物を発見していきました。また、要所での教員からの具体的な説明や、保護者ボランティアによる英語表記の解説ボードの説明などもあって、子どもたちは、東南アジアで広く食品に使われているパンダンの木を知ったり、枯れ木に穴を掘って棲むカーペンタービーや、水に沈む木ボルネオテツボクを見つけ屋根材に使われていることを知るなど、人、植物、動物の相互の関わりを示す事実をたくさん見つけました。また、社会科の単元「わたしたちのくらしと商店」において、在住日本人に身近なスーパー明治屋を学習した後、そこで学習した商売上の工夫などの知識やインタビューなどの学習方法を使って、シンガポーリアンの暮らしを支えるウエットマーケットの学習に発展させています。
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シンガポールの人々の暮らしを支えるウエット・マーケット(市場)とスーパーマーケットの比較を通して、シンガポールの庶民の台所であるウエット・マーケットの魅力と共に、その持続可能性について考える探究的な学習に取り組んでいます。
そして、教師もまた現地実地踏査を繰り返し行い、自分の足で歩き、目で見て触れるなど、諸感覚を使って魅力を探るとともに、シンガポール日本人会の「自然友の会」などと連携して事前研修を行い確かな知識を得ながら教材化し授業実践してきました。
また、探究する基礎となる教科の単元から発展する形でクロスする教育課程を編成実施してきました。その結果、体験だけに終わることなく、熱帯に住む人々と熱帯雨林・レインフォレストとの関りや、シンガポーリアンの食文化の原点であるウエット・マーケットの持続可能性を考えたりするなど、ESDの視点で子どもたちの学びがより探究的になってきたことを実感しています。
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これらの取り組みは全学年で行われており、今後もESDの一環として、シンガポールにある学校の強みを生かし、探究科基礎の授業を充実させていきたいと思っています。