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フィリピンとマニラ日本人学校におけるESDの概要

【海外通信員レポート:フィリピン】
 
[執筆者]浜中 真希
(マニラ日本人学校 教諭)

 
(1)マニラ日本人学校について
 平成28年4月、文科省の在外教育施設派遣教員としてマニラ日本人学校(以下MJS)に赴任しました。
MJSは、全校生徒約460人の小中併設校です。本校は日本国内と同じ教育内容を行っていますが、多くの特色ある教育活動を取り入れています。特に国際交流に力を入れていて、現地校との交流を行っています。
小学部2~4年生では、インターナショナルスクールのEverest Academyとの交流を年に2回行い、小学部5年生と6年生のそれぞれの修学旅行でも訪問先で現地校との交流を行っています。
中学部でも、インターナショナルスクールのBeacon SchoolやThe British School Manilaとの交流会を毎年行い、中学部2年生の修学旅行でも、現地校との交流を行っています。
また、本校では「英会話教育」の時間が小学部で週2時間、中学部で週1時間、全学年に設けられています。6つの習熟度別少人数クラスで、英会話講師の指導のもと英会話活動が行われています。そのため、本校での生徒の英語力は非常に高く、現地校交流や公用語が英語であるフィリピンでの日常生活でもその成果を発揮することができています。
また、生徒会活動では、ペットボトルや新聞、ダンボールを回収し、そこから得たお金を修学旅行時の現地校への教材購入費として使っています。地方の学校では、まだまだ教材が不足しているのがフィリピンの現状です。さらに、今年度から募金活動を行い、援助団体を通じて路上生活を強いられている子どもたちのために使ってもらっています。フィリピンでは、貧富の差が激しく、スラムを形成している地域が多く存在しています。
 
(2)交通渋滞について
 フィリピンは島国で、人口が約1億378万人の国です。人口のうち1300万人が首都マニラに集中しており、近年は激しい交通渋滞が起きています。公共交通機関としては、ジープを改造し20人ほどが乗れるように作ったジプニー、バス、モーターバイクに補助座席をつけたトライシクルが主なもので、電車はLRTが限られた区間を走っている程度です。公共交通機関が限られていることと、治安の関係から、経済力のある人のほとんどが車を所有しています。このことが激しい渋滞を引き起こしていると考えられます。
「マニラ首都圏地下鉄計画」が日本のODAで進められ、2020年には部分開通が予定されています。
 
①渋滞
渋滞
 
(3)食生活
 フィリピンでは、メリエンダと呼ばれる「おやつ」の時間が、午前と午後の2回あり、ボリュームのあるものを食べています。フィリピンの学校では、メリエンダの時間は確保され、各自がおやつを持参しています。
食事は、米を中心に肉を食べるのが一般的です。炭水化物と脂質の摂取過多により糖尿病や高血圧が増加中です。野菜の摂取量が明らかに不足しています。フィリピンの平均寿命は、68歳と短命です。医療の問題もあるかもしれませんが、食生活が大きく関係していることは間違いありません。
 フィリピンの家庭科の教育内容を見てみると、髪のカットの仕方や家庭介護について等専門的な内容が多く載せられています。食に関しては栄養面の指導のページが少なく、その結果、日々の食事の栄養バランスを考える事が不足していると感じます。
 
(4)自然環境
 熱帯のフィリピンは珊瑚礁が多く、美しい海が広がっています。世界有数のビーチが多くあり、リゾートホテルが建ち並び、観光業が発展しています。
 しかし、環境保護に関しては、観光客の急増に対応しきれていないのが現状です。世界最高ビーチに選ばれたこともあるボラカイ島が今年度半年間閉鎖となり、排水が海に流れ出ないように処理施設を整備しました。また、ホワイトビーチが美しく人気のボホール島に今年オープンした空港は、日本の技術を取り入れ、ソーラーパネルやLED、高性能空調システム等、フィリピン初のエコ・エアポートとなっています。
 毎年のように外国人観光客数の記録を更新しているフィリピンにとって、観光資源を保護しながら観光産業を発展させることが今後の大きな課題となっています。
 また、フィリピンでは、来客を十分な冷房で出迎えることが「おもてなし」になるため、18℃にエアコンが設定されていて、寒い中でジャケットを着ている姿を見かけることがあります。人々の意識の中での環境保護の観点からも、今後ESDに関する学校教育が重要であることは間違いありません。
 
(5)学校教育
 フィリピンは、独立前にアメリカの統治下にあり、学校教育は英語が多く用いられています。そのため、語学力を生かし、英語圏の国で活躍する人が多くいます。また、ほとんどの人が英語を話せるため、外国企業の進出も活発です。
 しかし、人口増加や財源不足に伴う教科書や教室が不足しており、また貧困による中退児童が多く、問題を抱えています。
貧しい子どもたちは、路上で生活したり、ゴミの中からお金になるプラスティック等を集めて生活している子どももいます。フィリピンでは、ダイオキシンの発生を防ぐためにゴミは焼却せず、巨大なゴミ山を形成しています。
 
③ビーコンスクールとMJSの交流
ビーコンスクールとマニラ日本人学校の交流
 
②ビーコンスクールとMJSの交流
ビーコンスクールとマニラ日本人学校の交流
 
(6)大戦中の激戦区
 フィリピンは、第二次世界大戦中の激戦地で、多くの戦跡が残っています。秘境と言われるパラワンでも海底には多くの日本船が沈んでおり、ダイビングで実物を見ることができます。
また、マニラ湾に浮かぶコレヒドール島は、アメリカ軍と日本軍が戦った痕跡が島ごと残っているため、MJSでも遠足で生徒と共に訪れ、平和学習を行っています。
 戦争で多くの被害を被ったフィリピンですが、辛いことでも「許そうとする」文化があり、過去の事にこだわらずに関係を築こうとする心の広さがあります。私たちは、ここフィリピンで暮らしながら、この気持ちにどのように答えていくべきか宿題をもらっています。
 
(7)最後に
フィリピンに赴任し、この国の人々の優しさや外国人に対しての偏見の無さにふれ、他を受け入れる寛容さの大切さを実感しています。この国に住み、その人柄にふれ、心の壁が以前よりも低くなった事が、私が得た一番大きなことです。
フィリピンは、今後ますます発展していく国です。そのため、環境、教育、栄養等の各分野においてESDを視野に入れた教育が今後重要になってくると考えられます。