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モザンビーク共和国ペンバにおける教育活動

【海外通信員レポート:モザンビーク共和国】
 
[執筆者]榎本 恵
(一般社団法人モザンビークのいのちをつなぐ会)

 
 当会は2013年から南部アフリカに位置するモザンビーク共和国、北部のカーボデルガド州で教育活動・公衆衛生活動・農業活動等を実施しています。事務局は州都ペンバの貧困者が密集して居住するナティティ地区に構え、その近くにスラムの学び舎・寺子屋を建設し運営もしています。
 
寺子屋教育1

スラムの学び舎・寺子屋での学習の様子。

 
 そもそも私は当会設立以前は、環境・農業・バイオマス系ベンチャー企業の起業や新規事業開拓を生業としていました。その経験の中、アジア諸国やアフリカへの先進国による巨額の資金投入の陰で、全くもって変わらぬ貧困者の劣悪な暮らしを何度も目の当たりにし、なんとか改善できないものかと、当会の設立に至りました。
 先進国の論理と、開発される途上国の貧困地の住民のニーズの乖離。その溝を埋めていくには、先進国側の政府や企業の利益第一主義からの脱却と、途上国の人たちの教育レベルの向上の二つが両立せねばなりません。
 現在でもモザンビークでは外資による農業開発や資源・エネルギー開発の際、土地取引のトラブルをはじめ、開発事業で現地住民が雇用されない、高い失業率など、住民の不満が募り大小の事件も起きています。さらに私たちの活動地において、2017年10月からモザンビークで初となるイスラム過激派による襲撃事件が勃発し、これまで200件以上のゲリラ攻撃、200名以上の死者が出ています。2019年の10月にはロシアの軍事会社の200名の兵士が上陸し戦闘を繰り広げると想定外の事態に陥っています。
 私はこれまで貧困者と生活を共にし、彼らとNGO活動を行い、スラムの子供たちに道徳教育を基盤とした読み書き、算数、工作、音楽、公衆衛生といった教育活動を、ご近所さんと助け合いながら比較的穏やかに日々続けてきました。それが、いま、現地のエネルギー開発と紛争という、住民の暮らしとはかけ離れた利益や思想なのに、負の影響を貧困層が真正面から受けてしまう局面です。この状況の中、「いま、何がここに必要なのか」ということに苦悶することが増えました。しかし、将来を見通しづらい困難な状況の中だからこそ、持続可能な社会をめざし、私たちは子供たちを対象とした地道な教育活動を継続することにしました。
 環境分野では、当会はスラムの青年たちと環境美化隊を結成、ペンバ環境美化活動を実施し、「自分たちの町を自分たちでキレイにする」意識を育んでいます。病気の予防や子供たちの健やかな成長に環境を整えることは必須ですが、回収されたごみの処理に関して、ゴミ集積所は野焼き状態で、エコロジカルなごみ処理施設の導入は、モザンビークにおける大きな課題です。
またエネルギー分野ではモザンビークは世界有数のバイオマス利活用立国ですが、これは私も含め、住民が木炭や薪で調理を行っているという昔ながらの方法しか選択できてないことに依っているところも大きいでしょう。現在、同国で行われている天然ガス開発で、ガスの輸出のみならず一般住民にもガスが行きわたると、便利になる一方で、木炭を売って生計を立てている農村の人たちの暮らしも心配になります。環境面への配慮、そして人々の生活を守るという点を両立し、エネルギー利用の持続可能性も確保することは大きなチャレンジです。
 そして、生命の持続可能性、とりわけ「自他の生命を守る術」を教えていくことも重要になっています。イスラム過激派のゲリラ攻撃が増加し、子供や青年たちへのリクルートも巧妙に行われる状況の中、暴力に訴えない平和的な問題解決方法を身につけるワークショップを含めた平和教育も実施する計画です。また気候変動の影響により2019年にはこれまで経験したことのない巨大サイクロンの被害にあっています。テロ・紛争時もそうですが、一刻も早く逃げなければならないところを正常性バイアスによって危険に鈍感になってしまい逃げ遅れてしまう住民たちも目の当たりにしました。これには訓練が有効ですので、防災教育や避難訓練も実施していくよう計画しています。
 平和教育も防災教育もこれまで現地で実施されたことがなく、初の試みとなりますが、日本の事例も参考にしながら、現地の青年たちとまずはマニュアルを作り、生命を守り、暮らしの質を向上する活動をこれからも地道に行っていきます。
 私たちは、これらの教育を通して、共に活動する現地の青年有志から、そしてスラムの子供たちから、住民の多くを占める貧困者が力づよく生き抜いていくための施策をどんどん実施していく現地のリーダーを育てていくことを目標としています。