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世界一幸福な国と言われるフィジーの裏舞台

【海外通信員レポート:フィジー】
 
[執筆者]深代 牧子
(JOCV(青年海外協力隊)・環境教育隊員)

 
観光地のイメージも強く、「世界一幸福な国」とも言われる国フィジー共和国。ゆったりと時間の流れる綺麗な島国。そして何より彼らの持つ今を楽しむ価値観には、忙しい現代の日本人が大いに学ぶべきことがあると感じる。私は現在JICA海外協力隊の環境教育隊員としてフィジーの町役場に派遣されている。今月で6カ月が経とうとしている。住んでみて見えてきたのは持続可能とは言い難いゴミ処理の問題である。今回はその裏舞台をレポートしたい。
 
現在フィジーは数十年連続で目覚ましい経済成長を遂げている。急激に経済成長するこの国では今やモノが溢れかえっている。スーパーに行けば美しく陳列されている大量の輸入品、インターネット環境も快適であり、大型のショッピングモールや映画館もある。都市部では日本と変わりない生活ができることに首都に到着して早々に驚いた。
 
スバのショッピングモール

(フィジーの首都スバのショッピングモール)

 
 気候が温暖で土壌が豊かなフィジーでは、十数年前までは暮らしのほとんどが自然に由来するものであった。当時はゴミ処理に頭を悩ませる必要はなかったのだという。現在ゴミと呼ばれるような自然に帰りにくい物質はほとんどなかったからだ。そのため、現地の人々はそれらをどこにでも捨てることが出来た。しかし、今は生活が変わり、出るゴミの質そのものが変わった。自然に帰るゴミからプラスチックや工業系のゴミへ、分解されないものが増えている。そのほとんどが外国からの輸入品である。ポイ捨てされたごみは誰かが拾わない限りそこに存在し続け、フィジーの豊かな環境を現在進行形で汚し続けている。観光地や大通りを少し外れると、公園や道路わきに落ちている大量のゴミを目にする。しかし、彼らは決してそれを良しとしている訳ではなく、自然に帰るゴミたちを投げ捨てていた習慣などから、なかなか改善できずにいるようなのである。
 
都市部の環境が一変した現在のフィジーでも、少し歩けばココナッツ、バナナ、パパイヤ、マンゴーなど野生のフルーツの木が生い茂り、海に行けば簡単に魚が手に入る。このように、お金がなくても生きて行けるだけの環境が整っている中で、急速な都市部のライフスタイルに切り替えること自体に無理があるのではないだろうか。
今後、地方部にも立派な建物が増え、法が整備されたとしても、勤勉に働き、貯金をして、ルールの中で生きるような都市型のライフスタイルが浸透するには時間がかかって当然である。また、個人的な疑問であるが、そもそもそのライフスタイルに移行することがフィジーの人々にとって本当に喜ぶべき変化なのだろうかと思うこともよくある。
彼らのゆったりと今を楽しむ性格は彼らのすばらしさであるとも思う。作品作りやイベント好きな彼らの性格を考えると、フリーマーケットや環境系イベントの開催は彼らに適した環境意識改善と言えるのではないだろうか。現在は都市の限られた地域でしか行われていないが、今後少しずつ地方部にも広がっていくのではないだろうか。
 
廃ペットボトルを使ったピアス

(毎月行われるフリーマーケットでの廃ペットボトルを使ったピアス)

 
現在のフィジーで出たゴミは、全てランドフィルと呼ばれる最終埋立地へ投棄される。焼却炉はなく、ごみはすべて埋め立てとなる。一部のランドフィルでは日本の福岡式(汚臭や汚水を防ぐ衛生埋立方式)が採用されているものの、多くのランドフィルではそこから染み出た液体が周辺の環境を汚していることも問題視されている。
 最近ではフィジーでもペットボトルや古紙のリサイクルを小規模ながら行っている場所がある。しかし、常に大きなハンデを抱えているのが現状だ。島が小さくて量がまとまらず、先進国のリサイクル市場に送ろうにも、輸送コストもかさむ。そのため分別回収もなかなか定着しないのである。
 
役場は3Rに関する取り組みを10年以上も前から試みている。町のゴミ箱の設置、ポイ捨て防止のポスター作製、さらには清掃労働者を雇い、街をきれいに保つように心がけている。JICAの協力もあって、廃棄物管理者の能力向上研修、資源ごみ分別回収システムの構築、家庭用コンポスト容器の配布とその指導も行っている。教育の観点から学校現場においてCSP(クリーンスクールプログラム)を導入した。3Rに関する取り組みを学校教育の中に組み込み、学年末にはそれらを互いに競争させて優秀な学校を表彰するといった事業である。先生たちもそのプログラムにより意識的に学ぶようになったという。しかし、すべての学校が参加している訳ではないため、このプロジェクトをきっかけにより多くの学校の先生と子供たちに環境教育についての学びの機会を与えるのが次の課題である。
 
このように、環境改善のための仕組みは政府や町役場の頑張りによって、小規模島嶼国ならではのハードルを抱えながらも、少しずつ整ってきている。そのような仕組みの部分が整ってきたことと比較すると、いまだに大人もポイ捨てをしてしまうような、国民の意識の弱さは課題であると言える。最近では少しずつ環境問題に興味を持ち、意識的に行動する人が増えてきているように感じるものの、全体的に見たらまだまだこれからであると言える。このように、ハード面の支援とソフト面の支援のバランスを見ながら環境施策を考えていくことがフィジー全体の環境意識を大きく前進させるのではないだろうか。
 
さらに2020年1月からフィジー全土で、使い捨てビニールの使用を全面的に禁止した。直前までどの市場でも使い捨てレジ袋を頻繁に使用していたのだが、今年に入り一切見なくなった。皆それぞれにマイバックや段ボール使い工夫し始めた。
 
繰り返し使える野菜ネット

(繰り返し使える野菜ネット)

 
周知は決して早くなかったので、街の人々の対応の速さには正直驚いた。数人にこの法改正についてどう思う?と聞いてみると『街の為にいいこと』だというようなことを口々に答える。導入直前には少しとまどう声もあったが、いざ実施されると不満を言うより前向きにとらえることが出来る。それもまたフィジーの人たちの素敵なところである。
日本ではきっとこのようにはいかないのではと思う。多くの議論を重ね、1年以上前から丁寧に告知し、段階的措置を踏んだ上での実施となるだろう。その丁寧さも頭が下がるが、実施に時間がかかるのは事実である。プラスチック問題のような待ったなしの事態においては、小規模の国ならでは実施の速さや対応力が大きな利点にもなるのだと感じた。リサイクル事業のような小規模島嶼国だからこその難しさもあれば、小規模島嶼国だからこその容易さも存在するのだ。同じように、陽気で楽観的な国民性だからこそ、浸透が難しい環境教育もあれば、だからこそ受け入れ易い環境教育の形も存在するはずである。その視点なくしての支援は、支援側の自己満足につながりかねない。
短時間のうちに途上国から先進国へと一気に駆け上がっている最中のフィジーは、リスクやもろさが常に隣合わせている。しかし、その内側を長年にわたって支えてきた各国の柔軟な支援と現地の人々の対応力や楽しむ力を合わせることで、将来的に環境先進国として他国のモデルになる日が来るのではないだろうか。まだまだ道のりは遠いが、大きなポテンシャルを持ったこの場所の変化が楽しみである。