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高校生の心と体を鍛える里山での米づくり活動

愛媛県松山市にある済美平成中等教育学校(以下済美平成校と略す)は、1997年に愛媛県初の中高一貫校として開校し、中高一貫教育の利点を活かした独自の学習カリキュラムを展開している。その一環として、「稲穂の里プロジェクト」と称する活動を行っている。これは東温市河之内地区において済美平成校、地域住民、NPO法人なもし開縁隊(以下、なもし開縁隊と略す)と協働した、里山での米づくり体験をメインとした総合学習プログラムであり、2010年度より行っている。
私自身、済美平成校の第3期卒業生であるが、実体験を交えたプログラムに魅力を感じ、活動開始当初から担当として携わっている石原俊典教諭に話を伺いに、母校を訪れた。
 
 
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「体力も知力も培われつつある高校生たちに心も身体も鍛えられるような学習活動を展開したい」当時の校長である正岡勝英先生の声から始まったこのプロジェクト。
なもし開縁隊も2009年度から東温市河之内地区の耕作放棄地における棚田再生事業を開始したところで、当初は一般市民向けの事業ではあったが、生徒の受け入れも快諾したという。
 
稲穂の里プロジェクトはお米づくりを目的で終わらせず、各々の生徒に実体験を通じて、知的好奇心を満足させるとともに、何かを感じ取ってほしいと石原教諭は語る。そのために農作業体験だけでなく、インプットもアウトプットも随所に取り入れている。
 
 
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まず3年次の修了前にプレ講座を開催する。これは農作業のみならず、より広範囲の総合的な学習を展開するために、基礎的な考え方、知識を伝えるためのものである。講義内容としては「ESD農力検定」と題した試験問題を課しつつ、なもし開縁隊代表理事の門屋哲朗氏による講話で構成されている。
 
 
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4年次に入り、いよいよ活動が本格的に始まる。5月にオリエンテーションを実施してから、河之内地区での田植えとなる。夏休み期間中に棚田の手入れ(4回時期を設け、そのうち最低1回は参加必須)を行い、そして9月に稲刈り。収穫したお米は10月下旬の文化祭での餅つきや家庭科の調理実習に使用されている。
 
 
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稲刈り終了後に学年集会を開き、門屋氏の講話を受けた後、SDGsに関するレポートを作成していく。5月のオリエンテーション時に“自分事として捉える”をテーマにSDGsを学んだことを踏まえ、17カテゴリーの中からいずれか1つを選び、実習を通して学んだこと、感じたことをレポートにまとめて提出するものであり、各々の生徒の主観に委ねてカテゴリーを選択させているが、プロジェクトの内容とは関連性が薄いと思われがちなカテゴリーについても触れており、選ばれなかったカテゴリーは1つも無かったという。また大学入試における小論文試験にも役立つスキルを身につけるべく国語との教科間連携も図っている。
 
さらに、次年度のプロジェクトを担う3年生だけでなく、過去にプロジェクトを経験した上級生も含めた在校生にも活動内容を伝えていくのも4年生のプログラムのひとつで、作成したレポートの中で担当教員が選んだ優秀作品については文化祭の中で展示している。今年度参加した男子生徒の1人は「自分自身で田植え、環境整備、稲刈りと実体験を重ねたことで達成感を味わえた。また米づくりは決して生徒や先生の力だけで出来たものではなく、なもし開縁隊や地域住民の協力もあってこそ出来たことで、この活動を通じて人と人との関わり、繋がりを意識することができた」と文化祭の中で発表している。
 
稲穂の里プロジェクトは2017年度で8年目を迎えたが、現状に満足せず年々改善を重ねている。このSDGsを取り入れた内容にしたのも2017年度からであり、実際に現場を体験し、取材して記事を書くことで、「野性と知性のバランスを保ち、頭でっかちにならず、丈夫な体と賢い頭を培ってほしい」と石原教諭は語る。
 
今後の展開として、学校としての活動をしっかり社会にアピールしていくほか、同じ河之内地区で活動している松山大学経済学部の松井研究室や卒業生(現に2010年度初期メンバーで平成校の教員となっている卒業生もいる)との連携も図りたいとしている。
 
実際に話を伺い、自分が在籍していた当時よりも進学実績も学習内容も大きく進化していて、進学実績も重視していく一方で、経験を重ねて生徒一人ひとりの能力を引き出すプログラムを展開することで他校との差別化を図り、中長期的な観点に立った人づくりも担っているように感じた。
今回の取材を機に、次年度以降、プロジェクトに参加し、自分自身が培ってきた経験、知識を母校に還元し、生徒たちとともに学びあい、心と身体を鍛えて、一度薄れていた母校との繋がりを深めていきたい。

訪問先

済美平成中等教育学校
愛媛県松山市にある私立の中高一貫校で1997年に開校。「自律、創造、対話」の校訓の下、文武両道をモットーとしており、高い進学実績を維持している。

記入者

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井上紘貴(岡山市京山地区ESD推進協議会)
2005年に岡山市京山地区におけるESD活動に参加。2014年2月の第1回ESD日本ユース・コンファレンスに参加、2014年11月のESDに関するユネスコ世界会議でもボランティアやオブザーバーとして参加するなど、10年以上一貫してESDに携わっている。活動の中で培ってきたものは「学びあい」、「地域への愛着」。現在は民間企業で働きながら、活動を両立させている中で、若者の参加しやすい場づくり、活動が継続できる仕組みづくりを模索している。