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人間と生物が仲良く生きる持続可能な社会を目指して

~岐阜県大垣市で、人間と生物がお互いに共存できる社会の実現に向けて、出前講座を行う「水門川いきいきプロジェクト」の近藤さんにお話を伺った~
 
 岐阜県大垣市の小・中学校では、2015年度から土曜授業が行われるようになった。土曜授業では、授業名を「大垣科」としている。自分の住んでいる街についてよく知り、街を愛するこどもの育成を目指したものである。
 
 岐阜県大垣市といえば、“水の都”で有名である。大垣駅周辺には、地元の新鮮な水を使用し作られた水まんじゅうやゼリー、地酒など、大垣でしか味わえない大垣フードに出会うことができるのが魅力である。そんな大垣にはもう一つの魅力がある。それが、きれいな水だけにしか生息することのできない“ハリヨ”という魚である。
 
 近藤さんは、10年前から、出前講座を行うようになった。その理由は、“ハリヨ”が大垣市の「市の魚」であることを子どもが全く知らないことを悲しく思ったからだという。また、以前は多くの“ハリヨ”が大垣市にも存在していたが、年々数が減り、“ハリヨ”の生きる場所がなくなっていることに危機感を感じたこともその理由だ。水質をよくし、豊かな川や緑を取り戻したいという思いから水質調査や水門川探査サイクリング、出前講座などの活動を始めた。
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 近藤さんは、教員、校長先生を経験しているので、子どもたちに授業するのは、とても上手である。小学校での出前講座では、“ハリヨ”を実際に水槽に入れて、大切に扱う姿を子どもたちに見せる。そして、子どもたちが“ハリヨ”の生態を、近藤さんへのインタビューやいきいきプロジェクトの方々が作ったパネルから、探していく。
 「どうして、背びれがとげとげしているの?」、「目が飛び出ているように見える」、「他の魚とはうろこが違うような気がするなぁ」など、子どもたちが実際に“ハリヨ”を見て浮かんできた疑問に近藤さんは答えていく。そして、“ハリヨ”をより身近に感じて、子どもたちは“ハリヨ”レポートを完成させていく。
 
 講座の終盤で、近藤さんは、こんな課題を子どもたちに投げかける。「「市の魚」と呼ばれている、“ハリヨ”の魅力がわかったね。現在市内では、このハリヨが存在できる川がどんどん減ってきているよ。一度汚れた川にはハリヨは戻ってこないんだ。美しい川をこれからも保つためにはどうしたらいいかな。」
 ハリヨの魅力にどっぷりつかった子どもたちは、「川のゴミを拾う」、「汚れた水を流さない」など自分ができることを提案します。あとは、子どもたちの提案を実践できるように、教師は、新たな活動を仕組むという流れで、出前講座が終了する。教員のマネジメント力も必要になってくる。
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 大垣科の授業では、教科書も使われている。そこには、「市の魚」“ハリヨ”が登場する。しかし、教員ですら、“ハリヨ”の存在や生態について、よく知らないので、専門家に依頼できる出前講座をどんどん利用していきたい。そして、地域と学校を繋ぐ活動が行われていくことが必要である。持続可能な社会に向けた取り組みは、地域の人材を活用せずには実現できないのだと、再認識した。
 野外で生物を捕まえて遊ぶ姿を見なくなった現在、生物を実際に見せ、触れ合うことで、環境について、興味を持たせ、環境保全を考える子どもたちを増やしたいものである。そして、子ども自らが学んだ環境に“よいと思うこと”を子どもから大人に発信できる場があれば、子どもたちが自発的に活動する意味が生まれてくる。
 
 土曜授業の出口としては、子どもたちが9年間を通して学んだ街の魅力を市長や役員たちに伝え、今後よりよい街になるように街づくりの提案を行う。
 今回の取材はその中の1つにしかすぎなかったが、出前講座は、教育に関わりを持ちながら、地域や世界が抱える問題を投げかけてくれる大きな存在であると感じた。出前講座を通して、地域の方と触れあう時間を持つことはもちろん、街に残る文化や伝統、そして動植物の不思議を教育現場で伝えることのできる地域市民を育成し続けることができる。それが、持続可能性を秘めたプロジェクトとなり、ESDを自分たちの地域、強いては、世界へと発信する人材が増えることを願いたい。

訪問先

水門川いきいきプロジェクト
水門川いきいきプロジェクトは、「水の都大垣」に豊かな自然を再生させることを目的として活動している団体である。大垣市のシンボルの一つである水門川やその川に生息する生き物を大垣の市民や大垣を訪れる人たちに親しんでもらうための活動を行っている。活動内容は、環境学習の出前講座や水門川探査サイクリング、カワゲラウォッチングなどがある。

記入者

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野村 佳世(Go4BioDiv)
2005年、愛・地球博に参加して以来、開発教育の研究を行う。一般企業に就職するが、開発教育を教育現場で実践し、広めたいという願いから、岐阜県の教員になる。海外生活の経験や語学の堪能さを生かし、社会科・外国語を担当し、ESDの実践を行っている。2010年COP10では、Go4BioDiv日本人メッセンジャーとして、各国のユースと世界遺産保護について考え、発表する。ユース・コンファレンス、JICA教師海外研修などに参加し、国内外で、ESDの実践を発信している。