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どんな人にでも宝がある

 「子どもの貧困」と聞いて、どんなことを思い浮かべるだろうか。
着るものがなく、ごはんを満足に食べられない、両親がいない、などをあげるだろうか・・・・。
 
近年、子どもへの虐待や子どもの貧困問題がマスメディアに取り上げられるようになってきた。それに伴い、各地域では、「子ども食堂」を開設するところが多くなってきた。 
愛知県内には、「子ども食堂」が多く存在するが、そのほとんどが、月に1回の開催、有料で行っている。今回取材に伺った、のわみ相談所は、ホームレス、DV被害者、外国人相談等の活動を行いながら、去年、「子ども食堂・無料塾」を開設した。毎週金曜日と土曜日、17時から19時の間、無料で食事の提供、塾を行っている。通常10人程度の子どもたちが学び、時間を過ごす。

この日は、小学2年生から中学2年生の生徒まで、計6人がいた。前半は、数学をボランティアの方と一緒に勉強し、後半は、一つの机を囲んで、中学生が小学生に手紙の書き方を伝えた。ここには、教えるも教わるもない。誰かが偉そうに教える“教え合い学習”ではなく、自分が知っていることを伝え合い、学習をする“助け合い学習”が行われていた。
学習中、ボランティアの方は、“助け合い学習”という言葉を使うところが印象的であった。子どもたちが社会に出てからも、“助け合い”が大切であるというメッセージが込められている意味の深い言葉のように思えた。
学習後は、食事の時間である。食事の準備を子どもたちが行い、わいわいとあたたかい雰囲気で食べる。食後には、トランプや折り紙など、レクリエーションを行う。

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中学2年生の2人に質問した。
「子ども食堂・無料塾に来てよかったことはある?」-
―「学校では、自分の意見が言えなかったんだけど、ここに来ると小学生に自分が教える立場になって、自分の意見を言えるようになった。知識も増えたし、テストの点数も上がった。」
―「不登校で学校には行けないけど、ここには来れる。やさしい鈴木さんや友達がいるから、毎週来ようと思う。友達が増えてうれしい。」
 
 ここには、子どもたちにとっての居場所が確実にあるのだと思った。ボランティアの方々、社会人たちとのコミュニケーション、自己肯定感を持つことなど、学校では補えきれない学習が、この場所ではできる。「子どもの貧困」とは、物質的な貧困のことだけを指すのではなく、愛情不足や心の拠り所がない心情的な貧しさのことも指すのだと、多くの方に知ってもらいたい。
 
 相談所の事務局長である鈴木さんは、「本当なら毎日、朝から晩までここを開けて、無料塾をやりたいわ。子どもは宝を持っていて、それを最大限に引き出してあげるの。なんだか自然とエネルギーが湧いてくるから、それくらい楽しい活動なんだと思います。」と笑顔でおっしゃった。
 教育は、人が生きていくためには欠かせない。教育の質の向上を図ることはもちろんだが、目の前の社会問題を正しく捉え、自分事として受け止めた結果、教育の質よりも教育できる場所を先に提供し、自分にできることを実践している鈴木さんに共感できる部分が多かった。

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鈴木美雪事務局長
 
 のわみ相談所は、「子ども食堂・無料塾」だけではなく、シェルター運営、共同墓地運営、フードバンクなど多くの活動を平成7年から手掛けている。資金が厳しい中、多くの活動ができるようになった背景には、当事者の力を生かしている点と市の行政機関を巻き込んだ点にある。
私たちは、今ある社会資源に依存し、消費するばかりで、何かを生み出そうとする力が弱い気もする。のわみ相談所は社会資源を最大限に利用し、当事者が持つ宝や力を心から信頼し、活動の範囲を広げてきた。これは、SDGsのスローガンである、“だれ一人取り残さない”に表れ、持続可能な社会の形成につながると思う。そして、非営利団体だけが活動をするのではなく、地域の内情をよく知っている、行政機関と共に活動することで、社会問題を解決しようとする活動は次第に街の課題となり、地域市民が支援者となり、活動が行いやすい状況を生み出すことに繋がったのだと思う。
 
日本国内ですら、貧困に陥ることは、どんなとき、どんな人にも起こりうるということ。それを相談できる場所や仲間がいることが今後の社会にとって、大切なことである。私たち誰もが失敗を恐れず、目の前の問題を解決するための方法を生み出すことができる宝の持ち主であり、生きがいと希望が生まれる社会を創ることができるのだと改めて感じた。

訪問先

「のわみ相談所」

 平成7年、のわみ相談所が設立された。当初から、ホームレス、DV被害者に対するシェルターの運営、外国人相談等の活動を行ってきた。平成23年には、のわみサポートセンターを設立し、リサイクルショップや福祉弁当の運営を、相談に来た当事者と共に行っている。平成28年には、インクルーシブのわみが設立され、子ども食堂・無料塾が行われるようになった。フードバンク活動や共同墓地を持ち、社会的孤立や貧困などで居場所のない人々を生涯サポートし続ける制度が整っている。
市民からの寄付寄贈、年間2000件以上、市民活動支援制度支援者2433名(平成29年度)となっており、一宮市全体で、のわみ相談所をサポートする体制がある。

リンク

のわみ相談所

記入者

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野村 佳世
(岐阜県岐阜市境川中学校教諭/Go4BioDiv日本人メッセンジャー/ESD Poca Pocafe in GIFU)
 2005年、愛・地球博に参加して以来、開発教育の研究を行う。一般企業に就職するが、開発教育を教育現場で実践し、広めたいという願いから、岐阜県の教員になる。海外生活の経験や語学の堪能さを生かし、社会科・外国語を担当し、開発教育・ESDの実践を行っている。2010年COP10では、Go4BioDiv日本人メッセンジャーの代表として、各国のユースと世界遺産保護について考え、発表する。その後、ユース・コンファレンス、JICA教師海外研修などに参加し、国内外で、開発教育・ESD・SDGsの実践を発信している。2017年より岐阜県内の外国人留学生や教員とESDの実践について、語り合う会“ESD Poca Pocafe in GIFU”を定期的に行っている。