17年に亘り民間の図書館として子どもと本の出会いを支えてきた高知こどもの図書館の取り組みについて古川館長に話を伺った
高知こどもの図書館は、はじめての離乳食ならぬ「はじめての図書館」として、子どもたちが「本を読む楽しさ」や「図書館に行く喜び」を知るきっかけづくりを行っている。高知市中心部に図書館を構え、子ども向け書籍はじめとする約3万5千冊の本を開架し貸出等を行っている。
「子どもたちが本と出会い向き合うことで、人生を肯定的に受け止める気持ちが育まれ、想像力や読解力、困難に打ち勝つ力になる」と古川館長。子どもたちと本の出会いを大切に、読書環境の向上および本を通した育ちを支える取り組みを行っている。本をきっかけに得られた力や知識などを用い、物事と向き合える人材へと成長してくれたらと期待が込められている。
今回は、高知こどもの図書館の取り組みの中から「巡回こどもの図書館」と「本の帯コンテスト」の取り組みについて紹介する。
①巡回こどもの図書館
巡回こどもの図書館は、県内の図書館が無い地域に訪れ、模擬図書館を作る取り組みである。バスによる巡回ではなく、数週間~数か月の期間限定で廃校になった学校の図書室などを利用して実際に図書館を開設する。子どもが数十名しかいない地域での実施もあるが「数十名であっても子どもたちが図書館を体験できることが大切」と古川館長。
本に触れた子どもたちが図書館で本を読むことの喜び、楽しさを感じる。また、図書館の運営に関わる地域の大人たちも子どもたちの姿を見て図書館が必要だと感じていく。そこから、読書環境の向上を地域で考えることに繋がる。実際、総人口約400人の大川村で、村図書室「大川村ことな館」が大川村小中学校の敷地内に新設され、地域の方々に利用されている。
巡回こどもの図書館をきっかけに地域の読書環境が整備されることで、日常的に本と出会うことができ、知識や教養を身に着けるだけでなく創造力や感性など子どもたちの育みや次世代を担う人材の芽生えに繋がっているに違いない。
②本の帯コンテスト
小学生から高校生までを対象に、高知こどもの図書館が選定した課題図書に対するオリジナルの本の帯を作成する「本の帯コンテスト(※) 」を開催している。
読書は、他人とのやりとり無く、一人で完結することが可能である。その点、本の帯コンテストは、読書に他人との連携性を持たせる取り組みであると考える。課題本を読む段階や本の帯を試行錯誤する段階では、他人に紹介することを前提に多面的・総合的に読み解き表現する力が必要となる。また、他人の作品を見るにあたっては、本の内容や魅力の分かりやすさを客観的に見る力が必要になる。改善・提案する段階では、批判的に考える力を身に付けることができる。
(※) 高知こどもの図書館が定める「課題本」から、自らがオススメしたい本の帯を製作し応募するコンテスト。寄せられた作品は審査員が審査しグランプリなどが選考される。応募作品は期間限定で高知こどもの図書館内で展示される。
本の帯コンテストは、その本をより深め楽しみながら、社会や世界の課題解決に繋がる能力を身に付ける取り組みであると思う。
高知こどもの図書館は、2016年12月で開館17年目を迎え、これまで多くの子どもたちと本が出会う機会を作り、本を通した育みを支えてきた。「図書館に来ていた子どもが親となり、自分の子どもを連れてきてくれた」と古川館長が嬉しそうに話す。単純な利用者の循環ではなく、親から子へと繋がっていることに意味がある。高知こどもの図書館の子どもたちに本を手渡す取り組みは、一過性の取り組みではなく緩やかに子どもたちの成長へと繋がり、どこかで子どもたちの力となる取り組みであると思う。
訪問先
認定NPO法人高知こどもの図書館日本初のNPO法人が運営する図書館として1999年開館。高知中心部で子ども向けの本をはじめとする3万5千冊の様々な本を開架している。子どもと本の出会いを大切に、高知県下で子どもに本を手渡す活動を行う。
記入者
尾崎 昭仁(高知市市民活動サポートセンター、認定NPO法人NPO高知市民会議)
1991年生まれ。高知短期大学社会科学科卒業。学生時代より市民活動に携わり、
卒業後NPO法人に入職。市民活動団体の支援を行う傍ら、人材育成事業「とさっ子タウン」の事務局を務める。
2016年、読売新聞社主催「読売教育賞 地域社会教育活動部門」で最優秀賞受賞。
子どものまちづくりを支援する高知市こどもまちづくり基金事業「こうちこどもファンド」大人審査員。